新堂 美影、

 

彼女の家は武家の家系である。

 

故に屋敷に道場等をもつが、門下生などは居らず、

 

……ただ、只管に『魔』を狩る剣技のみを求める一族である。

 

 

 

「………………」

 

『魔』と対峙する美影。

 

その得物は無銘の名刀である。

 

「グルルルルルル…………」

 

対する相手は『狐』。

 

……いや、外見は犬や狼のそれに近い。

 

だが『狐』と呼ばれる……四足の『魔』である。

 

……それが……二体。

 

…………ダッ!

 

先に仕掛けたのは『狐』の一体である。

 

正しく野生の獣の如し速度で美影に迫る狐。

 

……それを美影は刀で切り払おうとする。

 

……しかし、野生の獣『以上』の身体能力を持つ『魔』にその刀は届かない。

 

……そう、届かない筈だった。

 

「……?」

 

避けた筈の刀が自分の腹部を切り裂いている。

 

……その……矛盾。

 

しかしそれに気付く事無く狐は絶命……いや、消失した。

 

……残る一体が『不可視の刃』に裂かれるのは時間の問題だった。

 

 

 

……新堂一族。

 

その能力は『氣』による不可視の刀身を刃に重ねる事。

 

その能力を完全に使いこなす事が一族の到達点である。

 

………………

…………

……

 

……能力者の発生には二つのパターンが存在する。

 

ある特定の一族がそれ特有の能力を有する場合。

 

そして……脈絡無く偶然発生する場合である。

 

一般に(かなり限定的な一般だが)能力者としては前者がより優秀とされる。

 

一族が伝える能力の場合、有効な使い方、鍛錬方、弱点などが分かっている場合が多いからである。

 

ここ刻門町では能力を伝える家系は三つ。

 

護国陣の長たる『結界』の國頭家。

 

特有の剣技を伝承する『氣刀』の新堂家。

 

そして……最強の異端とされる天翔家である。

 

 

 

(……まあ、よーするにオレはその他ですかい)

 

御森 玖央、

 

彼は偶然発生した能力者である。

 

実際、その家族には特殊な力は存在しない。

 

(つーか……見下されてる気がするんだよなぁ……特にあのサムライ女に)

 

はあ、と溜息を一つ。

 

……まるで眼前の『魔』が見えていないが如く。

 

手足無き魔『蛇』、そして『狐』が一体ずつ。

 

それらが同時に飛び掛ってくる……!

 

……が、玖央の姿は既に無い。

 

グシャ

 

……車輪を付けた硬質金属によって形成された靴が『蛇』の頭を踏み砕く。

 

すぐさま翻る『狐』。

 

……もとい、『翻る筈だった』狐。

 

いくら『魔』とて獣を模している『狐』では四肢を捥ぎ取られていては動きようが無い。

 

金髪の少年は捥ぎ取った四肢を捨てると無雑作に弾丸の如き速度の拳を叩き込んだ。

 

 

 

御森 玖央、

 

その能力は『加速』。

 

その速さ……風をも上回る。

 

………………

…………

……

 

「よし、結界の修復完了! 真菜ちゃんが手伝ってくれたお陰で早く済んだよ♪」

 

「そんな……私は大して役に立ててませんよ」

 

結界の修復は思ったより早く終わった。

 

やはり一人と二人じゃ違う。

 

「あの……美影先輩達は大丈夫でしょうか?」

 

「ああ、大丈夫だって。あの二人が尋常じゃなく強いの知ってるでしょ?」

 

「ですけど……万が一ということも……」

 

「大丈夫だって。ほら」

 

私達が視線を移すと普段通りの二人が戻ってきた。

 

「ご苦労様。戦果はどうだった?」

 

「ああ、オレとこいつ、どっちも二体ずつなんだが……」

 

「あれ? 全部で五体じゃなかったっけ?」

 

二体ずつじゃ四体になるのは小学生だって分かる。

 

「大方、そのイナヅマ頭が間違えたのだろう」

 

「誰がイナヅマだっ!」

 

「まあまあ……まあ、良いや。結界も修復したから帰ろ?」

 

「ですね。私達、こんな夜中に出歩いてちゃいけない年齢ですし」

 

そう言えばいっつも忘れてるが私達は学生だった。

 

「そーだな。んじゃオレは先帰るわ」

 

言ってさっさと(ローラーブレードで)走り去る玖央。

 

「って、女の子だけ残して一人で帰るなっ!」

 

……ああダメだ。あの距離じゃあ聞こえない。

 

「まあ、アイツが居るよりは安全だろう」

 

「……美影さん。その色々な意味が含まれていそうな発言は一体……?」

 

「言葉通りさ。さあ、さっさと帰りましょう?」

 

あ、珍しい。美影さんが微妙に女の子口調だ。

 

………………

…………

……

 

『それ』は奴等が去るのを見届けていた。

 

(自分では勝てない)

 

そんな事は『それ』の低い知能でも明白な事実。

 

むしろ下らないプライドを持たない分、確実な道を選べたと言える。

 

今は奴等に勝てぬのならばより力を蓄えれば良い。

 

その為には人間を喰うのが効率的だ。

 

形状の無い自分ならば容易く人間の住処に入り込める。

 

そして気付かせる事無く取り込むのだ。

 

(ならば急がねば)

 

奴等が戻ってくる前に事を済ませたい。

 

……だが、『それ』は気付いていない。

 

自分に迫り来る存在を。

 

自分が選んだ道は確実な『死』への道だったという事を。

 

……『それ』が気付いた時には既に銀光が自分を裂いた後だった。

 

………………

…………

……

 

事はあっさりと片付いた。

 

生き残っていた『蛭』は短刀で切っただけで簡単に消失した。

 

……本来、形状を持たない『蛭』を物理的な手段で倒すのは至難である。

 

その為には不定形の肉体に点在する『核』を破壊しなければならない。

 

だが、剣で切る等の方法では先ず不可能である。

 

……そう、不可能の筈なのである。

 

(……帰るか)

 

踵を返し帰路へとつく黒髪の少年。

 

「待て」

 

後ろからの呼び掛けが無ければ……だが。

 

断る理由も無く振り返る。

 

……そこに立っている少女を自分は知っている。

 

確か……新堂 美影、隣のクラスの生徒だ。

 

「……何故、貴様がここに居る」

 

少女は怒気を隠しもせずに睨み付けてくる。

 

その視線は彼女の持つ刀のように鋭い。

 

「答えろ……天翔 斑!」

 

その呼び掛けに少年……天翔 斑は表情一つ変えはしなかった。

 

「何故も無い。能力者が『魔』を狩っただけだ」

 

事務的……と言えば聞こえは若干良くなるかもしれない話し方。

 

「ならば何故、協力しない?

そもそも何故ここに『歪み』が有ると知り、尚且つ『魔』が残っていると知っている!」

 

「正面から戦うのは危険が増す。そもそも俺の能力は奇襲や闇討ちに適している」

 

「………………」

 

「『魔』が残っているのを知っていたのは『視えた』からだ。

そして放置するより仕留めた方が安全だと考え行動した」

 

「……キサマ……仲間が危険に晒されていても自分の身の保身しか考えないのか!」

 

「護国陣に入った覚えはない」

 

「結衣や真菜はキサマの幼馴染だろう!」

 

「そうだ。因みに玖央は中学以来の友人となる」

 

「それを見捨てて……自分だけ悠々と……それだけの実力が有りながら!」

 

刀を構える御影。

 

「その腐った性根……叩きなおしてやる!」

 

言うが早いか少女は電光石火で飛び掛っていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

玖央「さあ、展開遅い? 第三話!」

 

ズゴスッ!

 

ゼロ「俺より目立ってんぢゃねえっ!」

 

玖央「そ、それ……主旨ちが……ふ……」

 

バタ

 

ゼロ「ぬ? ……能力者のくせに情けない。

いくらあとがきでは『絶対無敵作者フィールド』を張っているとは言え」

 

玖央「ルール違反だぜ……ベイベー……」

 

ゼロ「やかましっ! この手のあとがきでは大抵作者が酷い目にあうので先手を打ったのだ」

 

玖央「だからって……攻撃力までアップするなよ……」

 

 

 

御森 玖央(みもり くおう)

 

武器 ローラーブレード(名称は随時変更される)

 

能力 加速

 

外見 金髪(脱色による)の尖った髪型をしている。

    普段着が学生服(しかも常に着崩している)。

    顔つきはそれなりにイケメン(しょっちゅう表情が崩れるが)。

 

性格 不良だが善人。

    意外に頭もキレて色々と策略する。

    プライドもそれなりに高いが結構適当。

    常時テンション高め。

 

一言「オレの応援ヨロシクなっ!」